「会計学化」するマクロ経済学
- 代表 本吉 進
- 2019年11月4日
- 読了時間: 4分
別に職業柄というワケでもなく、社会科学の最重要部門として、経済学の本は定期的に読むのですが、アベノミクス以降、マクロ経済政策の動向は、正直ベースで、将来の財産防衛に影響しかねないレベルになりつつあるので、その意味でもこの領域のフォローは重要と思います。
写真は、この半年程度で読んだマクロ経済学関係の本ですが(右の『MMT』は恐縮ながら未読了)、明らかに感じるのは、マクロ経済学=財政・金融政策の説明形式が「会計学化」していることでしょうか。以下、順に述べましょう。
左の『日本のマクロ経済政策』は率直に言って強硬なアベノミクス批判の本ですが、少し公平性を欠くと思えるような批判もあるものの、個人的に興味深かったのは、「財政政策」と「金融政策」の二大領域で語られることが多いマクロ経政策に関して、明確に「為替政策」を取り上げていることでしょうか。しかも、1章ずつの「財政」と「金融」に対して「為替」は2章を設け、その二つ目の章で外国為替資金特別会計の問題点に関してかなり具体的に取り上げています。説明形式も含めて「会計」が俎上に上げられている部分ですが(正直、会計士の視点から読んだ場合、??と感じる説明もないわけではない)、GPIFや日銀の「ファンド化」はアベノミクスの議論で取り上げられる機会は多いものの、外為会計の論点は従来知らなかったため、この点は非常に有意義でした。現日銀総裁の黒田氏が、前任の財務官時代から、外為会計でかなりアグレッシブな介入を指揮していた点に触れている点も、ほぉ~っと思わせる点ではありました。
次に、真ん中の『金融政策に未来はあるか』ですが、著者の岩村氏は、日銀からアカデミズムに転じた方ですが、通常のマクロ経済学を超えて貨幣論一般に関して幅広い議論を展開されている方で、同氏の筑摩選書の『貨幣進化論』や『中央銀行が終わる日』は拙著の『精神会計学』でも参考文献として利用させていただきました。アカデミズムの世界では、2017年のジャクソンホールでのシムズ講演で有名になった、いわゆる「FTPL」(Financial Theory of Price Level:物価水準の財政理論)を専門とする学者で、渡辺努氏との共著の『新しい物価理論』(岩波書店)はFTPLに関する日本で唯一の本格的なテキストだと思います(我が本棚での「積読」の典型本ですw)。で、写真の岩波新書は、その半分はFTPLの啓蒙書と言って良い内容ですが(第2章のタイトルはそのまま「物価水準の財政理論」)、このFTPLの説明も(ファイナンス理論でのMM理論の説明のごとく)、ほぼ形式は「会計学化」されていて、政府や中央銀行のバランスシートの関係を単に数式化したと考えれば良い内容が多いです。民間→日銀→政府の財産の引当関係が結局、「政府の徴税能力」に帰着し、それが物価変動の原因となる、という議論は、各主体のバランスシートでの債権債務関係をイメージすれば、(斬新なマクロ経済学理論というよりは)むしろ当然過ぎるくらいの議論に見えます。
そして、昨今、某政党の躍進も絡めて話題になることの多い『MMT』。正直、理論の内容としては、FTPLの必然的発展のような議論に見えますが、ノーベル賞まで受賞したシムズの権威とは異なり、このMMTは本格的なアカデミズムの領域からは比較的冷遇(or白眼視)されているようです。翻訳の解説者も、一人はリストの流れを汲む経済ナショナリズムを標榜する、アンチTPPの活動でも有名になった中野剛志氏、もう一人は著名な数理マルクス経済学者の置塩信雄氏の弟子筋にあたる立命館教授の松尾匡氏ということで、海外での政策議論(米国ではサンダース、英国ではコービンが依拠と、完全にリベラルorラディカル傾向)も含めて、正直ベースで「野党的」な理論になっています。ただ、その内容は、(少なくとも「貨幣が存在しない」経済を平気で扱う新古典派の教科書的議論よりは)リアリティがあり面白いです。この『MMT』は上記の2著にも増して「会計学化」した議論が(正直、くどいほど)続きますが、「租税が貨幣を動かす」という命題を導く議論には、一定の説得力があり、手前ミソですが、私が『精神会計学』の第5章で展開した議論の裏付けを与えてくれているような内容も多く含まれます。ただ、私のMMTに対する総括的な感想は、「認識=理論においてはある程度合意するが、意思=政策においては合意できない」というものになります。拙著の議論では、「貨幣は、政府=日銀の返済する必要のない債務だが、だからこそ逆説的に、その債務性を担保するための規律を維持しなければならない」ということを、精神分析における超自我の性格に絡めて書いたワケですが、MMTを担ぐ方々の議論の多くは「自国通貨建ての国債はいくら発行しようが問題ではない、財政はどんどん出動すれば良い」的なものが多く、それはちょっと違うだろう、と。それが問題ないのなら、そもそも、会計(=経済性の情報ガバナンス)や税務(=租税徴収業務)などこの世から不要になるという意味でも、肯定できません。
なお、MMTの「租税が貨幣を動かす」という議論に関しては、別の記事を次にUPします。

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